慢性の痛みは脳内で自動的に記憶を引き出してしまうようなネットワークを構築しています。

末梢神経が侵害刺激を受けると、その痛み情報はまず視床に伝えられます。

この視床は「痛み」に関して、視床内部や大脳皮質、そのほかの脳領域と情報のやりとりを行って、それを情動や記憶を司る中枢に伝達する働きを担っていると考えられています。

視床の内側核群は、受け取った痛み情報を扁桃体や海馬など大脳の辺縁系へ伝えます。

そこでは身体的な痛み情報に痛みを受けた経験の記憶と、つらさ、苦しさ、怒り、不安などの感情が加え、情報の複合体である「痛み感覚」を形成し、その「痛み感覚」がこそが人の主観的な痛み体験のもととなっています。

最終的には内側前頭前野において、さきほどの「痛み感覚」と脳の他部位からくる情報をすべて統合したかたちで、記憶の回路へ組み込むかどうかを決定していくのです。

「痛み感覚」という短期記憶

急性痛の場合、身体からの痛み情報は一時的なものであり、やがて前頭葉は記憶への組み込みを指示しなくなっていきます。

この場合、扁桃体の活動は次第に終息し、痛みの情報の記憶が定着することはないとされています。

しかし、身体からの痛み情報が長期に出続けたり、扁桃体を刺激する、恐怖、不安、怒りなどの情動が繰り返されるような場合は、「痛み感覚」という短期記憶が定着し、それによって脳では主観的な「痛み体験」「痛みのネットワーク」ができあがることになります。

扁桃体を刺激するものには、「過去の感情を呼び起こさせる出来事」や「不安を起こさせる精神的ストレス」のような、不安増強物質の増加、あるいは自律神経のバランスを崩させるものなど、いろいろなものが存在します。

精神的に自己を不安にさせる出来事や、気候変化などによってさえ、その外部刺激によって痛みが悪化する体験をするということも考えられます。

もしこのような刺激を何度も繰り返し受けていると、扁桃体は常に過敏になりわずかな刺激にも反応するようになってしまい、それが引き金となって「感情をともなった痛みの記憶」、つまり「痛み感覚」が蘇ってきてしまうことになります。

つまり身体からの痛み情報がなくても、恐怖や怒りなどの感情のみで、「痛み情報の記憶」が容易に惹起され、これが「痛み感覚」として起こってしまうということになります。

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