エキセントリックトレーニングに着目して
今回の記事は前十字靭帯(ACL)損傷に対しての記事です。2023年に医学誌『Medicina』に掲載された最新の研究から、スポーツ復帰に向けて意識すべきトレーニングの考え方と具体的な実践ををお伝えします。
ACL損傷後のリハビリは「3つのフェーズ」で進むということ。
まず全体像を把握しておきましょう。ACL再建後のリハビリは、大きく3つの段階に分かれています。
フェーズ1(術後0〜12週):土台を整える時期
この時期の最優先事項は、腫脹と炎症を抑え、膝の可動域を取り戻すことです。筋肉の活動も少しずつ再開していきます。ランニングは術後約12週に医師の許可が下りてから始まります。この土台作りが、のちのパフォーマンス回復を左右します。
フェーズ2(術後8〜16週頃):動きを取り戻す時期
この段階では、低負荷の筋力トレーニング(オープンチェーンとクローズドチェーンの両方)を行いながら、「着地技術」や「低負荷のジャンプ動作」などを少しずつ取り入れていきます。膝への衝撃を適切にコントロールする感覚を取り戻すことがテーマです。
フェーズ3(術後20〜24週以降):競技復帰に向けた本格トレーニング
ここが今回の研究が注目したフェーズです。「もう少しで復帰できる」という段階で、どんなトレーニングをするかが、復帰の質と速さに大きく影響します。
純粋な筋トレだけでなく神経系へのアプローチがカギになる。
筋力を鍛えることは、あらゆるACLリハビリの基本です。しかし近年の研究では、筋力だけでは不十分だということが明らかになっています。
ACL手術後のアスリートの多くは、手術から何年も経ってもなお、脳と筋肉をつなぐ神経系に抑制がかかった状態が続いていることがわかっています。つまり、筋肉自体は回復していても、「使いこなす力」が戻っていないのです。
この神経的な問題を解決するカギとして、注目を集めているのが「エキセントリック(伸張性)トレーニング」です。
エキセントリックトレーニングとは?
筋肉の収縮には2種類あります。重りを持ち上げるときに働く「コンセントリック(短縮性)収縮」と、重りをゆっくり下ろすときに働く「エキセントリック(伸張性)収縮」です。
エキセントリックトレーニングとは、後者を意識的に強調したトレーニングのこと。スクワットで言えば、しゃがんでいく動作(膝を曲げる局面)をコントロールしながらゆっくり行う部分がこれにあたります。
このトレーニングには、通常のトレーニングにはない特別な効果があります。
- 筋線維の長さと断面積が増大する
- 特に瞬発力に関わるタイプⅡ筋線維を効率よく刺激できる
- 運動皮質の興奮性が高まり、神経的な抑制を解消できる
- 脊髄レベルの神経調節も改善され、筋肉を「使いこなす力」が戻る
研究が証明した6週間プログラムの効果
今回の研究では、サッカー・バスケットボール・ハンドボールなどの競技に属するプロアスリート22名(術後5〜6ヶ月)を対象に、6週間のトレーニング効果を比較しました。
一方のグループはフライホイール(等慣性デバイス)を使ったエキセントリック重視トレーニング、もう一方はフリーウェイトを使った従来型トレーニングを行いました。種目の数や量はまったく同じ。違いは「どう負荷をかけるか」だけです。
6週間後、両グループともに改善が見られましたが、エキセントリック群が圧倒的に大きな成果を出しました。
| 評価項目 | エキセントリック群 | 従来型群 |
|---|---|---|
| 患肢の筋力 | +27.1% | +18.1% |
| 両脚ジャンプ(CMJ) | +12.9% | +6.7% |
| 患肢の片脚垂直跳び | +23.8% | +13.7% |
| 患肢の片脚ホップ | +23.9% | +8.1% |
| 患肢のトリプルホップ | +14.3% | +5.3% |
特筆すべきは、差が大きく出たのがすべて患肢(手術した脚)のパフォーマンスだという点です。健肢(手術していない脚)の改善には両グループで大差はありませんでした。これは、エキセントリックトレーニングが神経的な抑制を解消し、「使えていなかった脚」を取り戻す力を持っていることを示しています。
実際のトレーニングプログラムはこう組む
研究で使われたプログラムを参考に、後期リハビリの週間スケジュールを紹介します。
週6日・1セッション80〜90分を基本とした構成(6週間)
月曜・木曜:上半身の筋力+アジリティ・減速動作・着地技術+有酸素持久力
火曜・金曜(・土曜):下半身の筋力トレーニング(メインセッション)
水曜・土曜:コアトレーニング+柔軟性+ストレッチング(回復セッション)
メインとなる下半身の筋力種目(6種目)
いずれもエキセントリックフェーズを意識して行うことがポイントです。
- ハーフスクワット(しゃがむ局面をゆっくりコントロール)
- コペンハーゲンエキセントリック(内転筋の強化)
- ルーマニアンデッドリフト(ハムストリングのエキセントリック強調)
- スイスボールレッグカール(ハムストリングの伸張性収縮)
- ヒップスラスト(股関節伸展の強化)
- ブルガリアンスクワット(片脚での安定性と筋力)
セット数とレップ数の進め方
| 週 | セット×レップ |
|---|---|
| 1週目 | 2セット×6回 |
| 2週目 | 2セット×8回 |
| 3週目(ディーロード) | 2セット×10回 |
| 4週目 | 3セット×8回 |
| 5週目 | 3セット×9回 |
| 6週目(ディーロード) | 3セット×10回 |
負荷は徐々に上げながら、3週目と6週目は意識的に「軽くする週」を設けます。これが疲労を抜きながら体を適応させる「ピリオダイゼーション」の考え方です。
各セッションの始まりは、固定式バイク5〜7分のウォームアップと、動的ストレッチ・体操(合計15分)から入りましょう。
これは完全に、筆者の主観ですが、やはり、後面筋(ハムストリングスや大殿筋)の筋力的な課題があると、復帰、または復帰後に違和感などが残存しやすい原因になると感じてきます。
ルーマニアンデッドリフトや片足でのバランストレーニングで体幹を制御する能力が重要になると感じます。
復帰判定には「数字」で確認しよう
「感覚的に良くなった」だけでは、スポーツ復帰の判断には不十分です。研究でも用いられた以下のテストを、目安として活用してください。
筋力評価: 患肢の筋力が健肢の90%以上に回復しているか(肢間対称性指数=LSI)。
ホップテスト: 片脚での水平跳び・トリプルホップで、患肢が健肢の90%以上の距離を跳べるか。
垂直跳び: カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)や片脚垂直跳びで高さを確認。
これらの指標が一定水準を超えたとき、初めて競技復帰へのGOサインと言えます。時間からではなく、「数値から判断する」という考え方に切り替えましょう。
まとめ
この研究が教えてくれるのは、「正しいトレーニングを、正しいタイミングで行えば、より早く、より確実に戻れる」ということです。
特に術後5〜6ヶ月を迎えた段階では、エキセントリックトレーニングを意識的に取り入れることが、患肢の筋力・跳躍能力・ホップ能力の回復を大幅に加速させます。週2〜3回、6週間続けるだけで、その差は数字にはっきりと現れます。
担当のトレーナーや理学療法士と相談しながら、ぜひこのアプローチを取り入れてみてください。
参考文献:Stojanović M.D.M. et al. “Effects of Eccentric-Oriented Strength Training on Return to Sport Criteria in Late-Stage Anterior Cruciate Ligament (ACL)-Reconstructed Professional Team Sport Players.” Medicina 2023, 59, 1111.