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ベンチプレスのバウンドはチーティング技術としてありなのか

バウンドは「ズル」なのか「テクニック」なのか

部活動のトレーニング現場(特に高校生)で、ベンチプレスを行う際にバーベルを胸で強く弾ませて(バウンドさせて)持ち上げている選手をよく見かけます。バウンドさせた方が重い重量が挙上できますが、これはトレーニングとして正解なのでしょうか。

ここで言う「バウンド」とは、バーベルを意図的に胸(胸骨付近)に衝突させ、その反動を利用して挙上を加速させる動きを指します。反動を使うのはチーティングといわれ、一部のボディビルダーやマッチョたちは、筋肥大を狙うのは効率的なテクニックと解説していますが、科学の視点から見るとどうなのでしょうか。

今回は、男子ハンドボール選手を対象に行われた8週間の調査結果をもとに、バウンドが筋力やパフォーマンス向上にどのような影響を与えるのかをプロの視点で解説します。

バウンドあり vs なしの8週間

この研究では、バウンドの有無が身体能力に与える影響を比較するため、以下の条件で実験が行われました。

  • 対象: 男子アマチュアハンドボール選手 16名
  • 期間: 8週間(週2回のトレーニング)
  • 比較グループ:
    1. バウンドあり群 (BPTbounce): バーベルを胸で弾ませて爆発的に挙上する。
    2. バウンドなし群 (BPT): 胸に軽く触れて、弾ませずに爆発的に挙上する。
  • トレーニング内容: 1-RM(最大筋力)の40〜60%の負荷で、バーベルを放り投げるように挙上する「ベンチプレス・スロー」を実施。

重要な前提条件として、どちらのグループも「バーベルを可能な限り速く動かそうとする『最大努力の意図(Maximal Voluntary Intent)』」を持ってトレーニングを行いました。

能力向上に差はあったのか?

8週間のトレーニングによる結果を、以下の表にまとめました。

比較項目 バウンドあり (BPTbounce) バウンドなし (BPT) 統計的な有意差
最大筋力 (1-RM) 8.7% 向上 10.3% 向上 両群で有意に向上(群間差なし)
7mスロー(ペナルティ) 5.1% 向上 (p=0.008) 4.6% 向上 (p<0.001) 両群で有意に向上
3歩助走スロー 2.3% 向上 (有意差なし) 3.8% 向上 (有意に向上) バウンドなし群のみ有意に改善
低負荷(20-30kg)パワー 有意な向上なし 有意に向上 バウンドなし群が優位

研究の結果、最大筋力や7mスローの速度は両グループで向上しましたが、より実戦に近い「3歩助走スロー」において統計的に有意な向上が見られたのは、実は「バウンドなし群(BPT)」だけでした。また、低負荷域でのパワー出力の向上もバウンドなし群でより顕著に現れました。

つまり、「きれいに挙げる」手法の方が、競技パフォーマンスに直結する能力をより効率的に高めたと言えるのです。

なぜバウンドに「特別な優位性」がなかったのか

反動を使えば大きなパワーが出るはずなのに、なぜバウンドなし群の方が良好な結果を示したのでしょうか。S&Cコーチとして、科学的背景から2つのポイントで解説します。

① 「最大努力の意図」と神経系の適応

トレーニング効果を決定づけるのは、バーベルの動きそのものよりも、脳から筋肉への「速く動かせ!」という命令、すなわち「最大努力の意図」です。バウンドを使わずとも、自分の限界の速さで挙上しようと意識することで、神経系には十分な刺激が伝わります。バウンドによる「物理的な勢い」は、身体の適応を助ける効果はないようです。

② 伸張―短縮サイクル(SSC)と基礎筋力の壁

バウンドは、筋肉が引き伸ばされた直後に短縮する「伸張短縮サイクル(SSC)」を利用した動きであり、上半身における「ドロップジャンプ」のようなものです。しかし、この弾性エネルギーを爆発的な力に変換するためには、衝撃を吸収し、即座に跳ね返すための高い「遠心性筋力(エキセントリック筋力)」が必要です。

今回の実験対象者の「筋力/体重比(1-RM÷体重)」は0.94~0.98でした。このレベルでは、バウンドの衝撃をエネルギーとして再利用する能力(反動強度の指標:Reactive Strength Index)が十分に備わっておらず、単に胸に衝撃が加わるだけで、パワー向上には結びつかなかったと考えられます。

まとめ

  • 結論: 短期的には、バウンドを使わなくても(あるいは使わない方が)、筋力や競技パフォーマンスは十分に向上します。特に助走付きのスローイングや低負荷でのスピード向上には、バウンドなしの方が効果的である可能性が高いです。
  • テクニックの選択: プロの投擲選手が1%の差を求めてバウンドを使うことはありますが、特に高校生や大学生などのアスリートは「胸に軽く触れてから全速力で押す」丁寧な動作を優先しましょう。爆発的に動かすトレーニングももちろん大切ですが、ベンチプレスやスクワットなどのストレングス種目はそもそもが操作が難しいため、まずはフォームの習得、強度の漸進を目指しましょう。それが結果的に3歩助走スローのような複雑な動作の改善に繋がります。
  • 安全上の重要注意: 高重量での過度なバウンドは、胸骨(きょうこつ)の圧迫や肋骨へのダメージ、骨挫傷のリスクを伴います。安全に長く競技を続けるためにも、無理な反動は禁物です。
  • 最も大切なこと: バウンドの有無以上に、一回一回の挙上で「常に全速力で挙上しようとする強い意識」を持つこと。これがパフォーマンス向上の最大の鍵です。

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