こんにちは。塩出です。
今回のテーマは「股関節伸展の重要性」です。
股関節は体幹を下支えする球関節で、この関節形態により大きな可動域を持つことができ、ヒトが自由度の高い運動ができるようになっています。
生物学的に考えると、ヒトは他の動物と違う直立二足歩行という移動形態をしています。この直立二足歩行を獲得できたことにより、脳が発達し、文明の形成につながったとされています。
股関節伸展という動きは、大腿骨が体幹に対して、後方に動く動作ですが、これは、直立二足歩行であるヒトだからこそできる動作とも言えます。
他の動物は四足歩行及び、股関節屈曲位の二足歩行であることが多いため、股関節を伸展するのは難しい動きになります。
歩行と股関節伸展
歩行時の股関節は踵がついた初期接地(IC:initial contact)では股関節屈曲位ですが、そこから伸展方向に向かっていきます。
そして、股関節が伸展することにより、股関節の屈曲筋群に遠心性収縮が起こります。股関節の屈曲筋群や周囲靭帯が伸張されることにより、バネのように弾性エネルギーが蓄積され、足が振り出されます。
つまり、この弾性エネルギーが歩行時の関節パワー発揮に重要になるということです。
さらに、歩くという動作は随意的に行われているのではなく、自動化された運動であることが分かっています。
おそらく歩くときに「左足を出したから、今度は右足を出そう!」と意識して歩く方は健常者では少ないのではないでしょうか。
歩行は、手足を反射的に動かすのと同じように、高度にパターン化された運動になります。
歩行のリズムを形成する神経回路は、脳幹脊髄に存在しており、運動の出力を作成して修正する役割があります。
歩行時の四肢の自律した動きは脊髄の貢献度が高いとされており、脊髄の頚膨大・腰膨大という場所にある歩行パターン生成発生器(CPG:central pattern generator)の存在が重要とされています。
central pattern generator
CPGは高位中枢と運動神経細胞の中間で働く脊髄介在ニューロン群で、歩行のリズムを形成し、歩行時に動員される筋の運動パターンを決定する役割があります。
歩行の制御は筋紡錘からの感覚情報が統合されることにより実現します。末梢の筋の長さや張力は常に中枢に伝達されています。
この末梢からの求心性入力は筋以外でもCPGに影響を与えるファクターになります。
例えば、ずっと歩いて靴擦れがあると、それをかばうように疼痛性跛行という歩行様式に変化しますし、雨などで路面が滑る状態での歩行様式は慎重にゆっくりとした初期接地になるなど、歩容を調整するようになります。
つまりCPGを活性化することにより、効率のいい歩行パターンの獲得につながる可能性が高いと言えます。
CPG活性は下肢の荷重負荷と股関節の関節角度の変化が重要とされており、これに伴う新しい感覚情報が必要となります。
この時、重要になるのが立脚終期(Tst:terminal stance)での股関節伸展動作になります。
股関節を伸展することにより、腸腰筋の伸展受容器からの求心性入力が送られ、遊脚期への移行をスムーズにするため股関節の屈曲筋群の活動を促すとされています。
股関節伸展が少なくなった状態だと、自動化された歩行リズムが乱れ、骨盤動揺も大きくなり、歩幅も減少します。
以上の点から、効率のいい歩行を目指す上で、股関節の伸展可動域の確保は重要と言えるでしょう。
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