こんにちは。塩出です。
今回のテーマは「肩甲骨はがし」についてです。
「肩甲骨はがし」とは
このように肩甲骨の内側に手を差し込み、肩甲骨を大きく動かす手技のことです。
「肩甲骨はがし」では肋骨と肩甲骨間の肩甲胸郭関節(STJ)を大きく動かすことにより、肩甲胸郭関節の可動域を向上させること、肩こりなどの慢性的な組織阻血状態を回復させる可能性があると思われます。
肩関節の解剖
肩関節は様々な組織が機能して成り立つ複合体です。肩関節では滑膜性であり凸面と凹面で形成される解剖学的関節と、非滑膜性の関節の第2肩関節、肩甲胸郭関節、coracoclavicular mechanism(ccメカニズム)に分かれます。
解剖学的関節(滑膜性関節) | 機能的関節(非滑膜性関節) |
肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節 | 第2肩関節、肩甲胸郭関節、CCメカニズム |
肩甲骨はがしと拘縮肩
では肩関節周囲炎(五十肩)、拘縮肩と言われる病態の場合はどうでしょうか。
肩関節周囲炎、拘縮肩とは肩甲上腕関節(狭義の肩関節)において、周辺組織の変性、癒着、炎症、筋攣縮に伴う反射性疼痛を主とした病態です。この場合、肩甲上腕関節(GHJ)に問題あることが多いです。
拘縮肩患者の多くは肩甲上腕関節の可動域制限がありますが、肩甲胸郭関節の可動域はどうなっているかというと、肩甲上腕関節の拘縮を代償するように、肩甲胸郭関節の可動性は大きくなることが研究により明らかになっています。
つまり、肩関節周囲炎や五十肩、拘縮肩と言われる病態では、肩甲胸郭関節は過可動性(hypermobility)になっていることが多いということです。この状態で「肩甲骨はがし」を施行するとどうでしょうか。
もともと可動域が出ている関節に可動域を増やす操作を行うことになります。そのため、拘縮や痛みが出ている場合、やみくもに肩甲骨を動かす施術を行う行為は、あまり効果的ではないと私は考えます。(※代謝性疾患をお持ちの方は軟部組織が拘縮してくるため、STJの拘縮も認める)
肩関節は多くの関節がそれぞれ協働して機能している複合体のため、それぞれ細分化して評価することが必要です。
しかしながら、肩甲骨はがしがすべて悪いわけではありません。肩甲骨はがしで身体が楽になったり、スッキリするなどの声も多いです。施術を受けるのは自由ですので、あくまで症状が改善しない方は考え方のひとつとして参考にしていただければ幸いです。
病期問題
また症状の出始め2-3日の急性期で炎症が強い場合は、無理な関節操作を行うことで、さらなる炎症を惹起する可能性が高いため、医療機関の受診をおすすめしています。炎症期の肩関節周囲炎、拘縮肩の治療目的は、炎症反応を鎮静化させることにあるため、医学的管理(検査、投薬)を必要とします。
2週間を過ぎたあたりから組織の修復が始まるため、この時期に、愛護的に筋緊張や攣縮を改善して、拘縮の進行をできるだけ防ぐことが大切です。
3か月以上経過している慢性例では、炎症反応よりも線維化により拘縮が完成しているケースや、神経的な問題が複雑に交錯しているケースがあるため、これらに理解があるセラピストが治療する必要があります。
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