前十字靭帯(ACL)の断裂は、アスリートにとって競技復帰の難しさや長期的な生活の質の低下をもたらす重大な怪我の一つです。
ACL損傷の発生状況と特徴
初期の質的分析により、ACL損傷の約70%が接触がほとんどない、または全くない状況で発生していることが報告されています。
これらの損傷は、主にチームスポーツにおける着地動作や減速動作の最中に発生し、その前には小さな動揺が神経筋システムを乱し、身体の動作制御を悪化させることが多いとされていて、これにより不適切な身体動作が誘発され、損傷のリスクが高まると考えられます。
損傷メカニズムの解析
これまで行われてきたビデオ解析を用いた定量的研究では、NC-ACLIを起こした選手と健康な対照者の脚や胴体の位置に顕著な違いがあることが確認されました。
特に、着地時に平足(フラットフット)の状態になることがNC-ACLIの発生に関与していることが示唆され、この平足着地の動作がNC-ACLIにおける重要な要因である軸方向の圧縮力(axial compressive force)を引き起こすことが報告されています。
解剖学的条件と関節力学の関連
磁気共鳴画像(MRI)を用いた研究では、NC-ACLIが発生する際の膝関節の位置が解剖学的な条件に影響されることが明らかになりました。
具体的には、脛骨の傾斜が高い(tibial slopeが大きい)選手ほど、損傷リスクが高いことが報告されています。また、膝関節の接触が通常の丸い部分(後部)ではなく、平坦で前方に位置する外側大腿顆(lateral femoral condyle)で発生することが多いことも報告されています。
これらの条件は、圧縮力が加わると転がる動き(rolling)よりも滑る動き(pivot shift)を生じやすくし、結果的に損傷のリスクを高める要因となります。
実験室での検証と筋力の影響
死体を用いた研究(生体力学的試験)でも、NC-ACLIにおいて軸方向の圧縮力が主要な要因であることが確認されています。特に、強い遠心性収縮を伴う大腿四頭筋の収縮や、膝の外転モーメント(knee abduction moments)は、関節における圧縮力を増加させ、その結果損傷が発生する軸方向圧縮力の閾値を下げる可能性があることが報告されています。
予防への示唆
例えば、筋力トレーニングや神経筋制御の改善を通じて、損傷リスクを低減できる可能性が示唆されています。
また、膝関節の適切な動きを促すための特定のトレーニングプログラムや、膝の外転モーメントを制御するための指導が有効と考えられます。
参考文献:Mechanism of non-contact ACL injury: OREF Clinical Research Award 2021
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